ひずみ測定モジュールLDO-1,HDF-1からHDM-1の開発まで
UA-1S、-2Sの開発前夜
◎UA-1S,-2Sといったひずみ率計の前モデルがUA-1A,-1B,-1Hでした。
自分も学生時代、どうしてもアンプのひずみ率を測る必要があってUA-1Bを購入しました。しかし、残念ながらひずみ率計としては殆ど実用性は無く、2~3度測ってひずみ計測は止めにしました。あまりに時間が掛かる割りには精々0.1%を切れるか?程度迄しか測れないので殆ど使わなくなりました。
現在も偶に中古が市場に出てきますが、少なくともひずみ計目的でのご購入は勧めしません。(しかも発振器が故障の場合は振幅制御にサーミスタを使っていますので修理が困難で残念ながら弊社でも対応はできません)
◎弊社の場合、業務上、かなり高性能のひずみ率計が必要で仕事上は殆どサウンドテクノロジー社の1700Aを使用していました。この器械は1kHz以下ですと0.001%程度まで測れ、当時としては優れモノで自社製品の開発や各社製品の測定に大いに活躍しました。
(渡辺が入社当時はオーディオピープル、HiFiレビュー誌等の仕事に関わっていました。オーディオが華やかな時代でした)
◎そのうちに「シバソクの725は0.0001%近くまで測れる!」といったことも話題になりましたが、一番衝撃だったのはトランジスター技術に載った黒田徹氏の「超低歪み発振器」でした。(略して)サンテク1700でも高性能アンプの場合、何台かはいずれも0.001%辺りで地を這うデータになってしまいます。(本来は0.001%以下まで測らないとマトモな評価は出来ない程、各社高級アンプの特性は良くなっていました)
黒田氏の功績は同時にひずみ測定用フィルターに関しても詳しく解説されたことです。
(逆に高性能なフィルターが無ければ高性能な発振器も作れない!ということですが…)
◎黒田氏が開発された「サンプル&ホールド検波型発振器」の原理は実にシンプルです。
発振器が歪む大きな要因は「振幅検波のリップル電圧で制御用FETの抵抗値が揺さぶられ、発振波形にもリップルが乗ってしまう。しかし発振波形のピーク値でホールドすれば殆ど検波出力にリップルは生じない筈!」 という発想です。
弊社も業務上、サンテク以上のひずみ率計を必要としていましたから、ものは試しでサンプルホールド型発振器の開発に着手しました。回路の検討と検証実験を繰返しているうちにサンプルホールド部(つまりロジック部分)をコンパクトに纏められれば弊社のスタンダードなモジュールケース(58×73)の中にも収まる!という見通しが立ってきました。モジュールに収めるポイントはロジック部分を完全にシールドで包みサンプルパルス漏れを無くせば比較的狭い空間でもアナログ回路への影響も殆ど観られなくなるということでした。⇒こうして完成したのがLDO-1モジュールです。1kHz以下では0.00003%程度(=-130dB。10次ひずみ以下のTHD。周波分析では-140~150dBといったレベルに達します)の実力が有ります。
◎ところで、ひずみ測定の限界は実のところ、発振器より歪み測定用フィルターの性能の方が大きいです。低歪みのCRを使うのが前提ですが、インピーダンスを相当小さくしないとCRの熱雑音で計測限界(ノイズレベル)が上がってしまいます。
弊社のHDF-1(ツインT式)の場合は標準仕様で「入力抵抗3.3kΩ以上」としていますが周波数特性を持ちますから、かなり曖昧な表現になります。信号源抵抗(Rg)が大きいと「フィルターの肩特性が下がる、全体的にもレベル低下」が起きますが、実用上は500~600Ω迄なら特性変化は無視出来る程度です。
入力抵抗(インピーダンス)を少し小さく設定出来れば更に測定限界を下げることも可能です。
HDF-1では仮にツインTを3次のフィルターとすると終段の帯域制限フィルター(3次)込みで19次の多段フィルターになっています。コンデンサーはかなり大きな物を使っている関係で1周波、1モジュール構成となりました。
弊社のHDM-1超低ひずみ測定器はこのLDO-1とHDF-1をベースとして、電圧計やスペアナ機能を盛り込んだ製品です。(ただ、あまりにも手が掛かるので、ほどなく製造は中止しました)
現在はLDO-1とHDF-1を組み合わせたHDM-1以上の特性の評価ボードの開発に着手したところです。
「単機能ならば安価で性能も上げやすい」ということです。(ロジックICの都合で最大、8周波までの対応になりそうです)
なお、HDF-1のノッチポイントは2か所ですが、これを3ポイントとして-140dBでの周波数許容誤差を±2%以上とし、SN比も向上したHDF-2にバージョンアップの予定です。
次回はHDM-1の簡易版ともいえるUA-1S、-2Sの技術解説の予定です。